見たい映画に困ったら〜家に帰る映画7選

映画には、「どこかへ行く物語」だけでなく、「帰ること」を目指す物語もあります。
故郷へ帰る、家族のもとへ戻る、異世界から元の世界へ帰る。目的は同じでも、その帰還が持つ意味は作品ごとに大きく違います。

この記事では、家に帰ることを物語の中心に据えた映画を7作品紹介します。故郷、家族、日常、元の世界――それぞれの「帰る場所」の違いもあわせて見ていきます。

※以下では、作品の内容に触れています。

Contents

オデュッセイア — 戦争を終えた英雄の、長い帰還の旅

帰還先:イタケー島の妻と息子、そして故郷

トロイア戦争を終えた英雄オデュッセウス。しかし、妻ペネロペと息子テレマコスが待つ故郷イタケー島への帰還は、神々の妨害や数々の困難によって阻まれ、長い旅となります。

旅の途中では、力では勝てない相手を出し抜く知恵、誘惑に抗う自制心、犠牲を伴う決断など、さまざまなものが試されます。オデュッセウス自身も判断を誤り、仲間を失いながら故郷を目指します。

彼の旅が複雑なのは、単に不運が続くからではありません。トロイア戦争での行い、そこで犯した過ちが、帰還の道のりにも影を落としています。その影と向き合う帰路です。

ようやく故郷にたどり着いても、長い不在の間に家の状況は変わっています。オデュッセウスには、帰還後にも果たさなければならないことが残されているのです。

『オデュッセイア』は、神話的な冒険の面白さとともに、戦争を終えた英雄がその過去を抱えて故郷へ帰ろうとする姿を描いています。

オデッセイ — 一つずつ問題を解決して、地球へ帰る

帰還先:地球

火星での探査中、激しい嵐に遭遇した宇宙飛行士マーク・ワトニー。仲間たちは彼が死亡したと判断して火星を離れますが、ワトニーは奇跡的に生き延び、一人取り残されてしまいます。

地球は遥か彼方。すぐに救助が来る見込みもなく、限られた食料と設備だけで生き延びなければなりません。

ワトニーが目指すのは地球への帰還ですが、火星から自力で帰ることはできません。まずは救助が来るまで生き残る必要があります。

そこで彼は、植物学者としての知識を生かしてジャガイモを栽培し、残された機材を使って地球との通信手段を探し出します。さらに、救助のための宇宙船と合流できるよう、火星上を長距離移動する準備も進めます。

食料を確保する。通信を回復する。移動手段を整える。一つの問題を解決すると、また次の問題が現れます。ワトニーはそのたびに状況を分析し、手元にあるものを使って解決策を考えます。

この作品では、地球へ帰るという途方もない目標が、具体的な課題の積み重ねとして描かれています。

一方、地球側でもNASAや仲間たちが彼を帰還させる方法を模索します。火星での孤独な奮闘と、地球からの救出作戦が重なり、少しずつ帰還の可能性が形になっていきます。

『オデッセイ』は、帰るという大きな目標を、今できることの積み重ねによって実現していく物語です。

オズの魔法使 — 虹の向こうへ行った少女が、故郷を目指す旅

帰還先:カンザスの家族と故郷

カンザスの農場で暮らすドロシーは、退屈な日常を離れ、虹の向こうにある素晴らしい世界に憧れていました。ところが、竜巻によって不思議なオズの国へ飛ばされると、彼女が願ったのはカンザスの家へ帰ることでした。

ドロシーは、願いをかなえてくれるというオズの魔法使を訪ね、黄色いレンガ道を進みます。道中で出会ったかかし、ブリキ男、ライオンとともに困難を乗り越えますが、帰還は簡単には実現しません。

そして最後に、ドロシーがオズの国で履いていたルビーの靴には、故郷へ帰る力があったことが明かされます。

帰るための力は最初から足元にあったのに、ドロシーは長い旅を続けていたのです。

ただし、その旅は無駄だったわけではありません。虹の向こうに憧れていたドロシーは、見知らぬ世界を旅する中で、自分にとって故郷がどれほど大切な場所なのかを知っていきます。

『オズの魔法使』は、遠くの世界への憧れから始まり、故郷の価値を再発見する帰還の物語です。

千と千尋の神隠し — 元の世界へ帰るために、異世界で働く

帰還先:両親とともに暮らす人間の世界

引っ越しの途中、不思議な世界に迷い込んだ千尋。両親は豚に変えられ、千尋自身も元の世界へ帰れなくなってしまいます。

千尋が望むのは、両親を取り戻し、一緒に人間の世界へ帰ること。しかし、帰る方法はわからず、頼れる両親もいません。

千尋は湯婆婆に頼み込んで油屋で働き始めます。初めは戸惑うことばかりですが、仕事を覚え、さまざまな人々と関わるうちに、自分で考え、行動できるようになっていきます。

千尋は成長するために異世界へ来たわけではありません。あくまで、両親と一緒に元の世界へ帰りたいだけです。それでも、帰るために必要なことを一つずつ経験していくうちに、最初は何もできなかった千尋が、自分の力で道を切り開けるようになっていきます。

物語の終わりに千尋が戻るのは、以前と同じ人間の世界です。しかし、異世界での生活を経験した千尋は、そこへ迷い込んだときの千尋とは少し違っています。

帰還を目指して過ごした時間が、結果として千尋の変化にもつながっている作品です。

猫の恩返し — 帰ることを、自分で決める

帰還先:人間として暮らしていた元の日常

猫を助けたことをきっかけに、猫の国へ招かれたハル。そこでは特別な客として歓迎され、王子との結婚まで用意されています。

最初は戸惑いながらも、猫の国での歓迎にまんざらでもない気持ちになるハル。しかし、そのまま猫の国にいることは、人間としての自分の生活を手放すことでもあります。

ここで『猫の恩返し』がほかの帰還作品と異なるのは、帰るかどうかをハル自身が決めなければならないことです。

猫の国での暮らしは、周囲が用意してくれた幸せです。しかし、それが自分の望む人生なのかは別の問題です。

ハルは、周囲の流れに身を任せるのではなく、自分の意思で人間の世界へ戻ることを選びます。

『猫の恩返し』は、帰還の方法を見つけること以上に、帰るという決断そのものが重要になる作品です。

LION/ライオン ~25年目のただいま~ — 記憶を頼りに故郷を探す

帰還先:インドの生まれ故郷と家族

5歳のとき、インドで家族とはぐれてしまったサルー。故郷から遠く離れたコルカタにたどり着き、その後オーストラリアの夫婦に養子として迎えられます。

成長したサルーは、オーストラリアで新しい家族に愛され、充実した生活を送っています。しかし、幼い頃に離れ離れになった母や兄、そして故郷の記憶が消えたわけではありません。

自分が生まれ育った場所はどこなのか。家族は今どうしているのか。

サルーは、わずかに残る幼少期の記憶を手がかりに、Google Earthを使ってインドの鉄道路線や町の位置を調べ始めます。駅の風景や列車に乗っていた時間など、断片的な記憶から故郷の場所を絞り込んでいくのです。

ほかの帰還映画では、帰る場所がわかっていても、そこへたどり着くことが困難になります。しかし『LION』では、そもそも帰る場所がどこにあるのかを探すことから始まります。

しかも、サルーにはオーストラリアにも大切な家族がいます。故郷への帰還は、現在の生活を捨てるためではなく、幼い頃に途切れてしまった自分の人生と再びつながるための旅なのです。

『LION』は、遠く離れた故郷を記憶と地図から探し出し、25年越しの帰還を目指す物語です。

ハート・オブ・ビースト — 戦場をともにした相棒を、家へ連れ帰る

帰還先:ジェームズとオーディンが暮らす日常

元特殊部隊員のジェームズ(ブラッド・ピット)と、元軍用偵察犬のオーディン。二人はかつて戦場で生死をともにし、退役後も一緒に暮らしています。オーディンは戦場で片脚を失い、ジェームズもまた戦争による心の傷を抱えています。

そんな二人がアラスカで飛行機事故に遭い、人里離れた大自然に取り残されてしまいます。

過酷な環境の中、ジェームズは軍人としての経験を生かし、オーディンとともに帰る道を探します。しかし、オーディンはただ守られるだけの存在ではありません。戦場で培った能力を発揮し、ときにはジェームズを助けながら、二人で危険を乗り越えていきます。

この作品で描かれるのは、飼い主と犬というだけではない、長年の経験に裏打ちされた信頼関係です。互いの存在が支えになる一方で、ジェームズには、オーディンを何としても無事に帰したいという思いがあります。

戦場で傷ついたオーディンに、これ以上危険な思いをさせたくない。もう一度、安全な場所で穏やかに暮らしてほしい。その願いが、ジェームズにとって帰還を目指す大きな理由になっていきます。

『ハート・オブ・ビースト』は、互いに助け合う人間と犬の関係を通して、誰かを無事に帰したいという思いを描いた作品です。

おわりに

今回紹介した7作品は、どれも「帰ること」が物語の大きな目的になっています。

ただ、帰るために何をしなければならないのか、何を乗り越える必要があるのかは、作品によって大きく異なります。

それぞれの作品について、この記事で注目した「帰還」の切り口を整理すると、次のようになります。

作品 帰還の切り口
オデュッセイア 罪を背負って故郷を目指す
オデッセイ 今できることを積み上げる
オズの魔法使 わが家の価値に気づく
千と千尋の神隠し 帰るために働き、成長する
猫の恩返し 帰ることを決める
LION/ライオン ~25年目のただいま~ 帰る場所を探す
ハート・オブ・ビースト 相棒と無事に帰る

「家に帰りたい」という動機は、映画の主人公が持つ目的の中でも、とてもわかりやすいものです。

大切なものを手に入れたい、誰かに勝ちたい、何かを成し遂げたい。そうした目的には、それぞれ理由が必要になることもあります。しかし、家に帰りたいという気持ちには、あまり説明がいりません。観客も、主人公が帰ろうとすることを自然に受け入れられます。

だからこそ、帰還を目指す映画では、その途中に何が起こるのか、どのように困難を乗り越えるのかが面白くなります。

今回紹介した作品でも、知恵や科学の力で道を切り開くもの、帰る場所を探すもの、帰ることを自分で決めるものなど、その描き方はさまざまです。

同じ「帰る」という目的でも、これだけ違った映画になるところが、帰還を描く物語の面白さだと思います。

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